初めて訪れた鷹城コンツェルンの本社ロビーは、今日が土曜日だったせいか閑散としていた。
 鷹城さんが到着した途端、エレベーターの前で待ち構えていた秘書らしき青年が、慌てて駆け寄ってくる。

「しゃちょー! 待ってました~っ」

 泣きそうな顔で私達を出迎えた彼は、私が驚く程の童顔で、褒め言葉ではないかもしれないが、間違いなく可愛い系草食男子な容貌だった。
 彼の顔を『なんて可愛らしい顔なんだろう』と、上から下までガン見する私に、ちらりと視線をくれた鷹城さんは、ムッとした不機嫌面で、

「待たせたな。こちらのご令嬢が寧音だ」

 にこりともせず淡々と紹介してくれたんだけども。
 え、なんでいきなり不機嫌? そう思いながらも、私はとりあえず「はじめまして」とお辞儀だけした。
 すると、その可愛い系な彼は、

「ああっ、貴女があの! あ、オレは里中徹《さとなかとおる》って言います! しゃちょーの母方の従兄弟で23歳ですよろしくっ! 徹くんって呼んでもいいよ!」

 いきなり喜色満面、ウエルカム! な態度で迫ってきたから、私はびっくりして思わず鷹城さんの背中に隠れてしまった。鷹城さんの上着の裾を握りしめながら、ちらりと徹くんの様子をうかがってみる。
 そうしたら、鷹城さんと目が合った。背後に隠れる私に、満足げにクスッと唇を緩ませる。
 それは、初めて会った時みたいな冷たい感じの笑みじゃなく、なんだろう。
 親しい者に向けるような暖かい、特別な笑みで。
 不覚にも心臓が高鳴ってしまった。

 ちくしょーちくしょー。

 ドキドキと拍動を繰り返す胸に手のひらをあて、心の中で悪態を吐く。
 イケメン過ぎる男は心臓に悪いったらないわ。冷たくてどこか淫靡、もしくは嘲りだとか不遜だとか。彼に浮かぶ笑みは、そんなものばかりだったから。
 でも、こんなにも自然でほんわりとした優しい笑みなんて、不意打ち過ぎて、心がざわざわと落ち着かなくなる。どきどきするのは、鷹城さんの不意打ちにヤラれて、心臓と頭がバカになっているせいなんだ。ただそれだけなんだから。深い意味なんてありはしないのだ。
 私は自分の動揺をそんな言葉で言い訳する。

 それに、いつの間にか機嫌直ってるし。
 嬉しげに口角上がってるし、鋭利な光を放っていた双眸も穏やかなものに変わってる。
 機嫌直るの早すぎでしょ。
 どんだけ気分屋さんなんだ、鷹城さんってば。
 だいたい徹くん、私が「貴女があの!」って言ったけど、「あの」なんなのか。続きがないから分からない。気になるじゃないの。

 鷹城さんが私のことをなんて説明してるのか凄く気になったけれど、ふたり並んで仕事の話をし出したので、私は一歩下がって見ているしかなかった。

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