その日、私は鷹城さんに抱かれた。

 今まで誰かに抱いて欲しいなんて思ったことはなかった。
 こんなにも、抱きしめられたいと願ったこともなかった。
 鷹城さんだけだった。自分から望んだ男は。
 灼熱の焔を内に秘めた愛しい男に抱きしめられて、私は無性に泣きたくなった。

「……寧音。貴女は今、何を考えているんですか」

 私はシーツを握りしめていた指を放し、掠れた声でそう尋ねる彼の首へと縋るように腕を回した。

「私、こんなにも……貴方のこと、好きになる、なんて……思っても、みなかった」

 吐息に混じる喘ぎと共に、口からは途切れがちな言葉が紡がれる。
 私を見下ろす鷹城さんをグイッと引き寄せ、汗ばんだ彼の首筋に唇を這わせた。そうして、私に施した同じ刻印を彼にも刻んでやる。
 肌を慄わせるくくっと愉しげな笑み声。鼻先を掠める鮮烈なまでの雄の香り。酔ったようにクラりとした。

「僕にとって、寧音は奇跡です。必ず自分のものにすると誓いました。なり振り構ってなどいられなかった」

 鷹城さんの顔に浮かぶ微苦笑。欲に掠れた彼の声に、痺れた脳が彼を離したくないと渇望する。
 けれど。
 そう思うだけで、じわりと視界に水の膜が張り出す。

 ――――彼が言う『奇跡』。

 それはきっと、貴方の勘違いを逆手に取った『偽りの奇跡』。今、私がついている『嘘』。

 ……ごめんなさい。

 潤み始めた両眼に、瞼を下ろして蓋をする。切なさを殺すために唇を薄く開き、彼に口付けを強請《ねだ》る。

 目尻にたまった涙が雫となって、乱れたシーツへと伝い落ちてゆく。そして、わずかに残った理性と共に、想いの雫は消えてしまった。

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