スイート・リトル・ラバーズ
3、お別れ、そして
 それから私はほとんど家には戻らずに、シンの実家にお世話になることになった。

 シンのお父さんもお母さんも妹さんも良い人で、まるで家族のように私に接してくれた。

 用事がある時は仕方なく家に戻ったけれど、そういう時は必ずシンが付き沿ってくれるようになった。

 そうこうするうちに月日はあっという間に過ぎ、私もシンも高校を卒業することになった。

 進路は、2人とも就職だった。

 私はホームセンターに就職して、シンはスーパーに就職した。

 シンとその家族は、私にずっと家にいていいと言ってくれたけれど、私はやはり遠慮があったから、働いたお金を貯めてアパートを借り、そこで一人暮らしをすることにした。

 その気になればシンもこっちに来ることが出来たけれど、不思議なことに同棲しようという話は出なかった。

 私はそれほど抵抗はなかったけれど、一番はシンが嫌がった。

 シンはそういう人間だった。

 倫理感覚がしっかりしていて、テレビで芸能人が出来ちゃった結婚をしたというのを観る度に、

「こういうのおかしいよな」

 と言っては顔をしかめるような人間だった。

 だから私のアパートにシンが泊まりに来るなどということはなかった。

 でもシンは昔のゲームが好きで、スーパーファミコンや64などをうちに持って来ては2人でよくやったから、遊びが目的ならうちにはしょっちゅう来ていた。

 この点、恋人と言うよりは、仲の良い異性友達と言った方が感覚としては正しかったかもしれない。

 仕事は楽しくなかったけれど、プライベートは充実していた。

 職場でも仲の良い友達が2人できた。

 そうして社会人生活が1年目を過ぎ、2年目に入った時だった。

 3月にシンが酔っ払いにからまれている女の人を助けて刺された。

 その電話を受けた時、私は何を言われているのか分からなかった。

 急いで病院に駆けつけたのだけれど、その時にはすでにシンは危ない状態だった。

 病院に二日泊まって付き沿いをしたのだけれど、その次の日にシンは息を引き取った。

 何か大切なものを奪われた気分だった。

 それなのに、私はお通夜に出席しても涙を流すことが出来ず、死んだようにその場にいることしか出来なかった。

 職場にもすぐに復帰したけれど、ものの感じ方が以前とはまるで違ってしまったのは事実だった。

 今回の旅行はそんな私を気遣ってくれた職場の友達が企画してくれたものだった。
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