砂漠の夜の幻想奇談
奇談の始まり


 真夜中のシリア砂漠を数頭のラクダが駆ける。

「お頭!このままバグダードまで一直線ですかい?」

「おうよ!着いたらこいつを高く売払って、当分遊んで暮らすぜ」


ラクダの乗り手は人さらいの一味。

捕まえた黒髪の少女を、お頭と呼ばれた男性が自分のラクダの尻に乗せて運んでいる。

少女は布で口を塞がれ両手を縛られているため、思うように抵抗できずにいた。


「お頭、そろそろやばくないっすか?この辺りっすよ。例の亡霊が出るところ」

一番年若い子分の声に、お頭は盛大に笑った。

「カッカッカッ!!バカめが!亡霊なんざいやしねーよ!」


と、その時――。

突如、砂塵が舞った。

砂埃が吹き上がり、視界が悪くなる。

少女は目を閉じ、男達は布や腕で顔を覆った。


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