ヴァージン=ロード

「伊咲……」
「凄いね、カノンさんは……」

 きっと彼女は、いろいろ背負っていたものを乗り越えて強くなったんだ。

「私は、嫌なことに蓋をしてがむしゃらに前に進んでただけだったのにね」
「伊咲、大丈夫よ」

 結婚、その言葉が私に思い出させるのは、飛び交う怒号と刃物だった。

 物心ついたころから両親は不仲で、よく喧嘩をしていた。大声を張り上げる二人に恐怖した私が泣くと、怒鳴り声の矛先が幼い私に変わる。
 そうして私は、必死に涙をこらえて部屋に閉じこもるのだ。

 怒鳴り声がやむと、決まって母親が私のところに謝りに来た。
 ごめんね、と、そう言って泣くのだ。

 小学生にもなれば離婚という言葉も知るし、うちの親は離婚するものだと思っていた。だけどそうしなかった。
 喧嘩をしていなくてもぎすぎすした空気、何をきっかけに始まるかわからない喧嘩、怒号の応酬――そんな日々に嫌気がさして、私は両親と話をしなくなった。
 夜遅くまで出歩き、家に帰ったら部屋にこもる日々。
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