偽装結婚の行方
尚美と伸一君を2階の俺の部屋に案内した。


「あら、すっから荷造りが出来てるんですね?」


部屋に入るやいなや尚美は驚いた様子でそう言った。俺は昨日から荷造りをしていて、後は単に車に運ぶだけになっているのだ。


「まあね」

「あの、荷物はこれで全部なんですか?」

「そうだけど?」


尚美は、俺の荷物が少ない事にも驚いたようだ。荷物はダンボール箱が2つと、大きめなボストンバッグがやはり2つ。それと折り畳んだベッドと布団だけ。必要最小限にしたからな。


その内の布団を伸一君はなぜかジーっと見た後、俺をギロっと睨み、プイと顔を逸らした。その時、彼の顔がポッと赤くなったように見えたのは俺の気のせいだろうか……


ん? なんだ? どういう事?


…………あ、そうか。伸一君は変な想像をしたんだな?
つまり、この布団の上で俺と尚美が……と。それは大きな誤解なんだって、説明するわけにもいかないしなあ。


それにしても伸一君って、案外ウブなんだな。茶髪で濃紺の特攻服みたいなの(実際は作業衣だと思うが)を着て、ずっと目を吊り上げてるから怖い印象だったが、改めて見れば、まだ子どもっぽいし、尚美に似て可愛い顔をしてるなあ。そう思ったら、少しホッとした。

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