「東京でいらないって言われてお払い箱になったんですか?」


 からかう私を見下ろして、本郷さんは頭を叩くフリをする。


「ばーか。昇進して帰ってきたんだから、お払い箱じゃねーよ」
「え、すごい。おめでとうございます」
「今日からおまえの上司だ。係長とお呼び」


 ふたりで少し笑った後、本郷さんは行き先掲示板の社員名を眺めてしみじみと言う。


「おまえの同期って、みんないなくなっちまったなぁ。女子はおまえだけか?」
「はい。みんな寿退社しました」


 元々、私が入社した年は不景気で新入社員が少なく、男女それぞれ三名ずつしかいなかった。
 男子は東京や他の支社に転勤になり、女子は私ひとり残して早々に結婚退職してしまったのだ。


「おまえもそろそろか? 弁当作ってくるなんてずいぶん女らしくなったな」
「コンビニ弁当に飽きちゃっただけです」


 机の上に広げたザクロの弁当を目ざとく指摘する本郷さんを、私は苦笑をたたえてサラリと躱す。

 女らしいどころか、そんな女らしいことは全部ザクロが担当している。私の女子力は一層低下したと言ってもいい。

 だいたい他の人に見えないとはいえ、ザクロを従えたままで結婚なんてできるわけがない。

 私が適当に言い逃れた事を察したのか、本郷さんは思い出したくもない事を指摘した。


「でもおまえ、オレが転勤になるちょっと前に、彼氏ができたっておまえの同期から聞いたぞ」
「去年別れました」


 まるでなんでもないことのように、笑顔を作って答える私に、本郷さんは少し申し訳なさそうな顔をする。
 そんな顔されると、よけいに痛いんですけど。


「そうか。悪かったな」
「いいえ。もうずいぶん前のことですし」
「じゃあ、オレ、昼飯に行ってくるわ」
「いってらっしゃい」


 気まずそうにごまかして、本郷さんはそそくさと立ち去った。

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