その日も夏の終わりに実家を尋ねた時、母に紅い繭の話をすると、母はうんざりしたようにため息をついた。


「またその話? 紅い繭なんて突然変異でしょう。昔の人は見慣れないものがあると怖がって神様か何かのように思ってただけなのよ」

「お母さんは見たことないの?」
「ないわよ。でもそれほど珍しいものでもないみたいよ」
「え?」
「あんたがうるさいから、ちょっと調べてみたの」

 そう言って母は、最近覚えたばかりのパソコンを操作して、ネットの検索画面を表示した。


「ほら。蚕だって食べる桑の葉に含まれる成分によって繭の色が変わるんだって。ヤママユもそうなんじゃないの?」


 蚕の繭は通常白い。ところが母の指さす画面には、薄緑色や薄黄色の繭、そして薄紅色のものもあった。

 だが違う。紅い繭はこんなに淡い色ではない。まるでザクロの果肉のような、濃い紅色なのだ。

 私は密かに畳の上に投げ出された自分の鞄に目をやる。
 実はここに来る途中で、偶然紅い繭を見つけたのだ。だが、言い伝えのせいで触れるのはためらわれた。そのため枝を折ってハンカチに包み、鞄に入れてきた。

 母に見せようと思っていたが、やはりやめておこう。たぶん、誰かがいたずらで絵の具を塗ったのだとバカにされそうな気がする。

 結局私は、繭を母に見せることなく実家を後にした。

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