過保護な妖執事と同居しています!


 会社で唯一の至福の時、お昼休みのチャイムを聞いて、私はお弁当を机の上に広げる。
 ふたを取ろうとしたとき、ふたつ向こうの席から本郷さんが声をかけた。


「海棠、昼一の会議資料、どうなってる?」
「え? まだ受け取ってないんですか?」
「来てないと思うぞ」


 本郷さんは自分の机の上にある書類をあちこちめくって確認する。

 資料は整っていた。印刷して閉じるだけでいいし、他に急ぎの仕事があったので、新人の坂井くんにできたら係長に渡してくれと頼んだのだ。
 どうなってるのか尋ねようにも、食事に出かけたのか、彼が席にいない。

 くっそー。係長じゃなく私に渡すように言えばよかった。
 昼一に必要だからって朝言ったのに、印刷するだけで何時間かかってるのよ。たぶん忘れてる。
 そもそも彼は何度言っても、頼まれた仕事を終わったかどうか報告しない。


「すぐ用意します」


 私は一旦お弁当を片付けて、会議資料の印刷を始めた。


「悪いな、昼休みなのに」


 本郷さんは苦笑しながら労ってくれたが、食べ物の恨みは根深いのよ。
 おのれ坂井、よくも私の幸せを邪魔したわね。

 私が資料を整えて本郷さんに手渡したとき、コンビニのレジ袋を下げた坂井くんが帰ってきた。
 何食わぬ顔で私の机の後ろにある自席に着こうとする。私は歩み寄って、努めて静かに尋ねた。


「坂井くん、朝頼んだ会議資料の印刷、どうしたの?」
「え? まだですけど、昼一でいいんですよね?」


 まったく悪びれた様子のない彼に、私はすっかり脱力してがっくりと肩を落とす。

 何を聞いてたのよ、こいつ。


「昼一の、会議で、必要だって言ったでしょ?」
「えー? 昼一でいいんだと思ったのに」


 言うことはそれだけか。

 確認しなかった私も悪いけど、ミスをしたのは坂井くんだ。
 ひとこと「すみません」くらいは言うのが普通だと思うけど、こいつは今まで一度も謝ったことがなかった。社会人としてどうかと思う。

 なんでこんな奴の指導係になっちゃったんだろう。
 我が身の不運を呪いながら、私はため息混じりに諭した。


「もういいわ。私がやったから。今度からはちゃんと話を聞いてね」
「はい」


 一応返事はしたものの納得がいかないのか、まだ小声でブツブツ言っている彼に背を向けて席に着く。
 文句言いたいのはこっちの方だっての。

 再びお弁当を広げた私の肩を、通りすがりに本郷さんが軽く叩いて行った。
 お疲れさんってことだろう。

 お弁当のふたを開けて、私の気分は急浮上する。やっぱりザクロのお弁当の威力はすごい。
 これがなかったら、私は味気ないコンビニ弁当を食べながら益々不愉快を募らせていたかもしれない。

 よし。昼からまたがんばろう。
 あんかけ豆腐ハンバーグを頬張りながら、私は密かにガッツポーズをした。



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