過保護な妖執事と同居しています!


 いつもと変わりない休日を過ごし、休み明けに出社すると、いつもはぎりぎりにやってくる坂井くんがすでに自席に着いていた。

 珍しいと思いつつ挨拶をして席に着く。パソコンの電源を入れ、立ち上がるのを待つ間に給湯室に向かった。

 コーヒーを淹れて給湯室を出ようとした時、目の前に坂井くんが立っていて軽く驚く。


「わ、びっくりした」
「すみません」


 笑って立ち去ろうとする私を坂井くんが呼び止めた。


「あの、海棠さん」
「はい?」


 私は立ち止まって振り返る。坂井くんは体が直角に折れ曲がるほど頭を下げた。


「この間は変な勘違いしてすみませんでした!」
「いや、あの、私も紛らわしかったんだし、そんなに気にしなくていいから」


 あまりにも盛大に謝られて、ちょっとおたおたしてしまう。彼は顔を上げて、言いにくそうに口ごもった。


「あの、それで、えーと……」


 あぁ、そうか。
 ピンときた私は、少し笑みを浮かべて彼を見つめる。


「大丈夫よ。私、酔ってて記憶が飛んでるの。覚えてないことを誰かに言いふらしたりはできないから」
「あ、ありがとうございます!」


 坂井くんは再び深々と頭を下げた。だからおおげさだって。恥をかかせたのは私の方だし。
 私の曖昧な言葉のせいで勘違いさせてしまったので、元々会社の誰かに話すつもりはなかった。とはいえ、坂井くんにしてみれば、勘違いだけでも恥ずかしいのに言いふらされたらさらに恥ずかしい目に遭うと気が気ではなかったのだろう。

 それにしても坂井くんがこんなに素直に礼を言ったり謝ったりしたのは初めてかもしれない。仕事もうまく回るようになってきたし、かわいげのないところも少しは改善されるかな?

 煙たがられていると思っていた坂井くんと、少しだけ歩み寄れたような気がして、私は機嫌よく自分の席に戻った。



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