帰り支度を整えた海棠が、オレの席までわざわざやって来て挨拶をした。いつもは自席のそばで声をかけるのに何事かと彼女を見上げる。
 海棠は少し遠慮がちに口を開いた。


「あの、本郷さん。今少し、時間ありますか?」
「あぁ。なんだ?」
「ちょっと下まで一緒に降りてもらえませんか? すぐすみますので」
「あぁ」


 オレは理由もわからないまま席を立って、彼女と一緒にビルの一階まで降りる。出入り口の自動ドアを抜けると、その脇には赤毛のあいつが立っていた。

 いや、今日は髪も目も黒い。服装も燕尾服ではなく、ジーンズにスニーカー、白い綿シャツの上に黒いダウンジャケットという、かなりラフな格好をしている。

 海棠に促されて一歩前に出た男は、オレに頭を下げた。


「頼子の従兄で赤井坐九郎と申します。先日はあなたに不作法なマネをして申し訳ありませんでした。二度とあなたを傷つけるようなことはいたしません。平にご容赦ください」


 あまりにも丁寧で古くさい物言いに面食らいつつ、いまひとつ状況が飲み込めず、オレは惚けたように男を見つめる。
 その横で海棠も一緒に頭を下げた。


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