ザクロが繭から出てきて一月が過ぎていた。色々とズレたところはあるが、妖怪執事のいる生活も悪くない。

 部屋の隅にあるテーブルの上には、すでに朝食が準備されていた。
 湯気の立つコーヒーとバタートースト。プレーンオムレツと茹でたウインナーの横には、レタスとミニトマトのサラダも添えられていた。

 和風妖怪のザクロは和食料理の方が得意だが、時々洋食も作ってくれる。
 一人暮らしをするとき意気込んで買い漁ったもののほとんど開くことのなかった料理本が、フル活用されているらしい。

 手を洗ってテーブルのそばまで行くと、ザクロが当たり前のようにイスを退いて座らせてくれる。
 高級レストランのような扱いも、私にとってはすでに日常の一部となってしまった。


「いただきまーす」


 両手をあわせた後、トーストにかぶりつく。ザクロはそばに控えたまま、私が食事をしている姿をニコニコしながら黙って見つめていた。

 ザクロは基本的に食事をとらない。頼めばつき合いで食べたり飲んだりしてくれるけれど、生命を維持するための食事ではない。私の生気が食事のようなものなのだという。

 そして生気の量は私の精神や肉体の健康状態に大きく左右されるらしい。
 私が病気になったり気持ちがふさいでいたりすると、彼がお腹を空かせてしまうのだ。

 だからザクロは私が病気にならないように、原因は見つけ次第密かに排除しているらしい。妖怪には見えるのだという。

 初めて妖怪らしい能力を知ったが、私には見えないので、今ひとつピンと来ない。


「ごちそうさま。オムレツおいしかった。上手になったね」
「ありがとうございます」


 今日のオムレツはとろふわでとてもおいしかった。狭いキッチンで本当によくやっていると思う。

 実は今まで何度も失敗している。本を見ながらやっているので分量を間違えたことはないが、プレーンオムレツは火加減が難しいのだ。

 私も何度となく挑戦したが、まともにできた試しがない。
 自分ができないのに他人の作ったものをとやかく言ったりはしないが、生気の状態で私が満足していないことはザクロに筒抜けらしい。

 私が朝食に満足したことを悟って、ザクロは嬉しそうに微笑んだ。

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