狂妄のアイリス
 おじさんの寝顔を見るのは、これが初めてだった。

 そういえば、この毛布も布団も私の使っている物じゃない。

 部屋に入らないと約束した。

 だから、おじさんは自分の布団を私にかけてくれたんだ。

 毛布に顔をうずめると、おじさんの匂いがした。

 嬉しくて、涙が出る。

 あの時は日向さんが、今はおじさんがいてくれる。

 私はなんて恵まれているんだろう。

 一人じゃない。

 だから、生きていける。

 どんなに自分を切り刻んでも、それでも私は生きていた。


「蛍? どうした……」


 おじさんが、うっすらと目を開ける。


「ううん、なんでもない。ありがとう。起しちゃってごめんね、寝てていいよ」

「そうか……」


 目を覚ましたのは一瞬だけで、すぐに寝入ってしまった。

 仕事もあって疲れているはずなのに、私の看病をして、傍にいてくれる。

 私は暗闇の中で微笑んで、おじさんに触れた。
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