狂妄のアイリス
 朦朧とする意識のなかで、女は人影が自分に手を伸ばすのを見た。

 人影は女の顎をつかと唇をこじ開け、口に布を詰め込む。

 涙を流し女が吐きそうになろうとも構わない。


「っ――!」


 女が抵抗するように人影との間に手を構えると、その手をつかんで土足で踏みつけ地面にこすりつける。

 女の悲鳴は布に塞がれて、うめき声にしかならなかった。

 痛みと恐怖で涙が溢れ、布を詰め込まれた口から唾液が垂れる。

 女から抵抗の意思が消えるまで痛めつけて、人影は動きを止めた。

 女は布をくわえたまま、地面の上で動かなくなる。

 意識を失ったわけではない。

 いっそ、意識を失えたらどんなに楽だろう。

 これから自分の身に起こる、おぞましい出来事を悟る。

 黒い手袋をした人影が、ベルトを外す音を聞いた。
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