3つのR
3、春、板前・右田龍治


 店は思っていたよりも近かった。

 病院を出て駅前を抜け、地元の人で賑わう長い商店街の奥まったところにある、小さな店。今は暖簾もなく閉じられている店の壁には、「酒処山神」の看板がかかっていた。

 ・・・山神って、お店の名前だったんだ。

 一生懸命に歩いて上がった呼吸を鎮めながら、私はお店を見上げていた。こじんまりして、ちょっと可愛いかも、そんなことを思いながら。

 こんなところに居酒屋があるのは知らなかった。普段は駅を越えて病院を越え、また違う私鉄がある北側に住んでいる私は、こっち側には滅多に来ないのだ。商店街があるのは知っていたけれど、そうなんだ、まだこの商店街はちゃんと生きていて、こうして全ての店が開いて商売をしているんだ・・・。

 スーパーがやっぱり便利だからよく使うけれど、元々は姉も私も商店街や個人商店が好きだった。だからまだ元気なその商店街を振り返って、私は何とはなしに笑顔になっていた。

「ほい、どうぞ」

 ちょっと待っててと言って店の裏側に回った彼が、店の入口を開けてくれる。さっきまで真っ暗だった店の中のカウンター周りに電気を入れて、早くおいでと私を呼ぶ。

 ・・・いいのかな、入って。だってまだ開店してないのに・・・。そう思ったけど、ここまで着いてきてしまってやっぱり止めときますと言う勇気は私にはなく、おずおずと店内に足を踏み入れた。


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