双世のレクイエム

問1:少年、思如何程何




正直言って、何が起こったのか分からなかった。というより、理解するほどの頭脳もなければ気力もない。

少年・ワタルはうまく働かない脳でそんなことを思っていた。

気づけば自分は倒れていて、どこかズキズキと体のあちこちが痛み、しかし目の前に見える景色は変わらなくて――――。

――いや、変わったものがすぐそこにあった。


ワタルを見下ろすように立つ人物がフタリ。

ヒトリは紅く燃えるような髪をしており、
ヒトリは蒼く凍えるような髪をしていた。


まるで対極にあるフタリだが、仲良くワタルを見つめて何やら難しい顔をしているあたり、その仲がどれほどのものなのかは察しがたい。

せめて何か言ってはくれないだろうかとワタルは口を開く。
が、すぐに驚き固まることしか出来なかった。


―――声が、出ない。

そういえば、自分はどうやって口を利いていたのだろうか。そもそも最近誰かと喋った記憶すらない。

どうしたものか。


口を利けない、声を出すことが出来ないとはまた深刻だろうに、ワタルは呑気にそう思うばかりであった。


「おい、貴様。喋れないのか?」


声をかけられた。紅い髪をした方にだ。

喋れないのでこくこくと頷けば、紅髪の人物は「そうか」と呟いてまただんまりを決め込んだ。

ワタルとは違い、どうしたものかと難しい顔をして悩んでくれるあたり、どうやらワタルをどうこうしようという訳でもないらしい。

今度は蒼髪の方が話しかけてきた。


「どっか痛いとこあらへん?」


また首を縦に振る。どっか痛いとこ?ええ、ええ、ありますとも。身体中がズキズキいたしますとも。

喋れない代わりにキツく睨むと、蒼髪の人物は「元気そうやな」と言って苦笑した。


「で、どうするさかい。この子、喋れんようやし体もよう動かれへんようや」

「どうすると言ってもな。アレの世話を焼けというのか?」


アレと言われたことにカチンときたワタルだが、紅髪の人物は、ふん、と鼻を鳴らすだけだった。


「ほんでも、こうなったんはわてらの責任どす。あの子の体がこれから一生動かれへんようけなったら、どないしはりますのん?」

「…それは、」

「相手が誰やろうと、わてらが何やろうと、礼儀を忘れたらあきまへんで」


腰に手をあて説教をするかのように紅髪を睨む蒼髪の人物。

どうでもいいからはやく助けてくんないかなあ、という言葉は飲み込む以前に吐き出すことも出来ないので、ワタルはただ夜空を見つめるばかりであった。
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