略奪ウエディング

揺るぎない思い

梨乃と手を繋いで夜の繁華街を歩く。
ようやく涙を止め落ち着いた彼女だったが、その鼻と目はまだ赤くなっている。

俺はそんな梨乃を横目で見ながらクスッと笑った。

「何か食べて帰るか?俺は帰っても一人だし。付き合ってくれる?」

「はい」

梨乃が俺を見上げて嬉しそうに笑う。

「お勧めの店はある?金沢はよく分からなくて」

「うーんと、…そうですね。あ、美味しい鍋のお店がありますよ。『とり野菜』っていう金沢のみそ鍋です」

「へえ。そこに行こうか」

「はい」

梨乃は泣きべそをかいていた顔のまま、もうはしゃいでいる。
繋いだ手を前後に大きく振って歩く。

彼女のこうした新たな面を見るたびに、これまでの大人しい印象が次第に塗り替えられていく。
悲しいときには、抱きしめたくなるような顔をする。
嬉しいときは、子供のような笑顔になり、…その細い身体を抱けば、全てを…心の底から欲しいと思わせる。

彼女が今日は残業になることは分かっていた。
以前に予約していた指輪ができたと宝石店から連絡を受けて、梨乃の仕事に間に合うように取りに行った。

俺は焦っていたのだと思う。

東条よりも俺を選んでよかったと梨乃に思われたい、そんな事を考えている。
一体、何に対して張り合っているのか自分でもバカバカしいと思う。
だが、変に気負っているだけだと分かっているのにその考えは止まらない。

「課長、こっちですよ」

「おい、滑って転ぶよ」

俺の方を向いて後ろ向きに歩く梨乃を注意する。
薄く積もった雪の上を、踵の高いブーツで器用に歩く彼女を見ながらヒヤヒヤとする。


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