ラストバージン

* * *


榛名さんとの約束の日曜日は、心が穏やかになるような晴天だった。
一昨日の事を根に持っているらしい患者さんに昨日も怒鳴られたけれど、今日は少しくらいの嫌な事なら忘れられそうな気がした。


明日になれば、きっとまた師長からも何か言われてしまうだろうし、今日も矢田さんがミスをしているかもしれない。
ついそんな事を考えて眉を下げてしまった自分自身に、心の中で笑顔を作るように促した。


昨夜から用意しておいたバッグを持ち、時計を気にしながら部屋の中をうろつく私は、どこからどう見ても落ち着きがない。


てっきりどこかで待ち合わせをするのかと思っていたけれど、【近所ですし、迎えに行きますよ】というメッセージをくれた榛名さんがマンションの下まで迎えに来てくれる事になっている。


約束の時間まで刻一刻と迫って来る長針が、何となくだけれど進むのが遅く感じてしまう。
そんな私の手の中で、スマホがメッセージ通知の小さな音を鳴らした。


【今から迎えに行きます】


簡潔な文章なのに、妙にドキドキしてしまう。
五センチヒールのパンプスに足を入れ、深呼吸をしてから玄関のドアを開けた。

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