ラストバージン
密着度が高い気がするのは、軽自動車だからだろうか。
運転席と助手席の距離が異様に近く思えて、下手に動けば榛名さんに触れてしまいそうで、自然と身を小さくしていた。


「結木さんは車酔いはされませんか?」

「平気です」

「普段、運転はされますか?」


平静を装って笑顔を見せると、榛名さんが私の緊張を和らげるかのように続けて質問を紡いだ。


「一応免許は持っているんですけど、運転にはあまり向かないみたいなんです、私……」


苦笑いを浮かべると、彼がフッと笑った。


「結木さんって、何でも熟せそうに見えるのに」

「そんな事ないですよ。運転は特に苦手で、今じゃすっかりペーパードライバーです」


そんな私の免許証は、もちろんゴールドだ。
よく運転をする菜摘からは、『ペーパーのゴールドなんて詐欺よ』なんて言われているけれど、それでも金色には違いない。


「榛名さんは、よく運転されるんですか?」

「そうですね。休日出勤の時はほとんど車で通勤していますし、それ以外でもよく乗りますよ」


笑顔で答えた榛名さんの運転は、短い距離を走っただけにもかかわらず安全だとわかる程に穏やかなもので、安心して助手席に座っていられた。

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