ラストバージン

* * *


昼食を摂る暇もない程ハードだった仕事を終え、更衣室でツーピース式になっている白衣のジャケットとパンツから私服へと着替える。


ロッカーの鏡に映る顔はすっかり疲れ果てていて、メイクは崩れてしまっていた。
周りに気付かれないようにこっそりとため息をつくと、鏡の中の私の肩越しに可愛い笑顔が映った。


「お疲れ様です、結木(ゆうき)主任」


酒井(さかい)さん、お疲れ様」


同じ時間だけ働いているのに、ほとんどメイクが崩れていない二十代前半の後輩。
振り返って笑顔を向けながらも、年齢差を見せ付けられた事に憂鬱になった。


昼食が摂れなかった今日、メイク直しの為の時間ももちろん取れなかったのは、酒井さんだって同じのはず。
それでも、ほとんど崩れていないベースメイクの映えた肌と、メイク仕立てのような目元や口元を見れば、私にはもうない若さが羨ましくなった。


「主任、明日も早番でしたよね?」


「そうよ」


「じゃあ、私は夜勤なので、入れ違いですね」


リップだけをサッと塗り直して「そうだね」と頷き、羨望を隠しながら「お先に」と言い残して、酒井さんよりも一足先に更衣室を後にした。

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