ラストバージン
「お父さん、お母さん……」


込み上げそうになる涙を必死に堪え、精一杯笑って見せる。


「今までたくさん心配掛けて、本当にごめんね」

「葵……」

「やだ、何言ってるのよ……」


父と母は口々に言って小さく笑ったけれど、その瞳には僅かに涙が浮かんでいた。


それだけ心配を掛けていた事を、心底申し訳なく思う。
同時に、だからこそ自分の言葉で伝える事の大切さを痛感し、今抱いている気持ちを紡ごうと決めた。


「榛名さんの言う通り、私達はまだ付き合ってから三ヶ月しか経っていないから、これからの事はわからない。でも……」


息を小さく吐いてから隣にいる榛名さんを見ると、彼が柔らかい笑みで私を見つめていた。
その表情にまた幸せを感じ、再び両親に向き直る。


「私も、榛名さんとは結婚を前提としたお付き合いをしているつもりだし、この先の人生は榛名さんと歩んで行きたいと思ってる」


迷いのない瞳を向ける私に、両親がどこか感慨深げな、それでいて安堵したような表情になった。


「まだまだ心配を掛けてしまうかもしれないけど、これからも見守っていて下さい」


そんな二人に頭を深々と下げた後、ゆっくりと顔を上げて笑みを浮かべた。

< 302 / 318 >

この作品をシェア

pagetop