ラストバージン
電車で二駅の職場から帰宅し、すぐにバスルームに飛び込む。


浴槽にお湯を張る間にメイクを落として体と髪を洗うのは、時間短縮の為。
そうした作業を終えた後に八分目程のお湯が溜まったバスタブに炭酸ガスの入浴剤を入れ、肩下までの緩いパーマが掛かったダークブラウンの髪をクリップで纏め、湯舟に体を沈めた。


「疲れた……」


ため息混じりに漏れた声が、バスルームに響く。


今の病院に就職してからはまだ三年目だけど、肩書きはリハビリ科病棟の看護主任。


【危険・きつい・汚い】
3Kと呼ばれるそれらが付き纏う看護師という職業には、近年更に【休暇が少ない・化粧ノリが悪い・給料が安い・婚期を逃す・薬に頼って生きる・規則が厳しい】という6Kが加わるようになったらしく、人気がある職業のわりには離職率が高い。


そして、関東の某有名私立大学卒業で三十歳を控えた年齢だった事に加え、主任候補だった先輩の寿退職。
それらの環境を考慮すれば、今の病院に就職した二年後にリハビリ科の看護主任になれたのも、特に不思議な事じゃない。


ただ、主任という立場である事から看護師長と下のスタッフに挟まれてしまい、どうしても神経を擦り減らす日々を送らなくてはいけないのだけれど……。

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