ラストバージン
「何言ってるの! おめでたい事なんだから、謝る事なんてないよ!」


必死になって言葉を紡いだ私に、恭子が心底嬉しそうに笑う。


「葵らしい」と呟いた彼女は、安堵混じりのため息をついた。


「あ〜、ドキドキした。ずっと言いたかったのに中々言えなかったから、変な緊張感が芽生えちゃってたみたい」


穏やかな笑みを零した恭子は、すっかり母親の表情になっている。
その横顔を見つめながら、彼女から何度か食事に誘われていたのにタイミングが悪くて断ってばかりだった事を、今になってとても後悔してしまった。


こんな事なら、どんなに無理をしてでも時間を作れば良かった。


「恭子」

「ん?」

「おめでとう。本当に本当に、おめでとう」


抱いた後悔をそれ以上の祝福で覆い尽くしたくて笑えば、恭子はこれ以上ないくらいに嬉しそうな笑顔を見せた。


「ありがとう。もう私の両親にも旦那の両親にも報告したんだけど、葵にお祝いして貰えた事が一番嬉しいかも」

「そんな事言っても、何も出ないからね」

「あ、ばれた?」


破顔した恭子と顔を見合わせて、クスクスと笑う。
それから程なくして、不意に彼女が不安げな表情を浮かべた。

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