異世界で家庭菜園やってみた

2.苦悩と孤独

「国王陛下は、あなたに無理強いするような怖い人には見えなかったけど……。アシュラムさん自身が陛下に逆らえないって思ってるのは、どうして?」

「それは」

言い掛けて、アシュラムは口を噤んだ。自分の中で考えをまとめようとしているように見えた。

「アシュラムさん?」

「私には、心を許せると思える存在がありませんでした。父である国王も幼い頃に仕えるべき存在となり、母は私が生まれてすぐに亡くなりましたので。神殿においては、私はいずれ召喚の秘術を使う者として、腫物に触れるように扱われましたし。
ですが、私はどこかで、陛下に父としての愛情を求めていたのです。この年になると、もうそのようなこともありませんけどね、さすがに。
ですが、幼い頃は幻術のような魔法を披露したり、少しでも父に褒めてもらいたくて、いろいろ試しました。父に見て貰えていると思うだけで、自分はこの世に必要な存在なのだと思うことが出来たのです。ですが、結局親としての愛情を貰うことはなかった。国王はあくまで国王で、父ではなかった。ですから臣下である私は、陛下に逆らうことは出来ない。逆らえば、陛下は私を見捨てるでしょう。私は、臣下としての信頼まで失いたくなかったのですよ」

「……」

「情けない男だと呆れておられるでしょうね」

「……アシュラムさん」

「はい」

「それで、わたしはなんて言えばいいの?アシュラムさんは可哀そうな人ね。あんまり可哀そうだから、わたし、頑張るわって、そう言えばいいの?」

「いいえ。そうではありません。私はただ……」

「アシュラムさんは、一度でも言ったことがある?陛下と親子になりたいって。父として大好きだって。言ってもいないのに、ただ求めるだけなんて、おかしいよ」

「姫……」

「わたしはここに来たこと、ちっとも犠牲だなんて思ってない。でも、アシュラムさんが間違ってるってことだけは分かる。この国の人は何かに頼らなきゃ生きていけないなんて、それはアシュラムさんも同じじゃない!!」

アシュラムが息を飲むのが分かった。同時に、悠里は自分が言ってはならないことを言ったのも分かった。

水を掛けられたように、悠里は瞠目し、口を閉じた。

けれど、もう後戻りできない。

青ざめるアシュラムの顔を、悠里は呆然と見返している。

悠里の心も、アシュラムと同じように傷付いていた。

アシュラムに言った言葉は、そのまま悠里自身の胸に、棘のように突き刺さったのだ。

悠里とて、一度でも、父母にもっとかまってほしいと言ったことがあっただろうか。

須江田くんに告白もしないで、自分はダメだと想いを捨ててしまったではないか。

自分の事を棚に上げて……と、悠里は自身を蔑んだ。

きっと、アシュラムは、そんなつもりで自分の事を話した訳ではないのに。

ただ、こういった事情だから、国王の為に召喚を行ったのだと説明したかったのだ。

それなのに、悠里は彼の傷をも抉(えぐ)ってしまった。

彼に向けて、一番言ってはならないことを言ってしまったのだ。

自分の不甲斐なさを自覚したくないあまりに。

そうして結局、自分はこうして傷付いている。

この世界で唯一、信頼したいと思う人を傷付けて。

「ごめ……なさい……」

悠里は声を絞り出した。

「ごめんなさい!!」

「姫!?」

悠里は四阿を飛び出した。

アシュラムの制止の声を無視して走った。

走って走って、最終的に広い王宮で迷子になった……。



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