――「ねえ、伊藤。ちょっと聞きたいんだけど。ここの価格の表記の位置がね、モデルとかぶって…」

カタログ片手に彼に話しかける。

「…何」

彼は面倒くさそうに振り返った。
冷たい視線をこちらに向ける。

「あ…。や、やっぱり、いいや。ごめん」

私は慌ててカタログを抱えると、足早に自分のデスクへと戻る。


彼の部屋を出てから半月が経っていた。
私は実家に落ち着いていた。

父と母には、克哉に恋人がいたことを話してはいなかった。
彼は長期の出張なのだと言って、羽伸ばしに来たような態度を取っている。

心配はかけたくはなかった。
…いずれ、正直に話さなくてはならないのだけれど、どうしてもまだ、勇気がなかった。

『イトー開明堂』との繋がりが無くなったなら浅尾屋はどうなってしまうのだろうか。
克哉には、何とかなるだなんて言っておきながら、実は私にはその辺りの事情は皆目見当もつかなかった。


チラリと彼の方を見る。
パソコン入力をしている横顔を見ながら、元気そうだと安心する。
と、同時に複雑な気持ちにもなる。