私たち、政略結婚しています。

ふと、彼女の左手を見て、私の目は大きくなる。

…エンゲージリング…?
薬指に輝くシンプルなプラチナの輝き。

そんな私の表情に気付いて彼女はニコリと笑った。

「…これ?克哉がくれたの。…もうしていてもいいって。
ごめんなさい、おかしいわよね。まだあなたと正式に別れてはいないのに。
彼ったら、気が早すぎるわね」

そう言って幸せそうに笑う彼女につられるように、私も無理矢理笑ってみせた。

先ほどまで私を抱いていた克哉が、中沢さんに指輪を贈っていた。

…別に、今さら、驚くことはないと自分に言い聞かせる。
もともと二人の中に入って邪魔をしたのは私だ。
そんな私とは、そのような証がなくて当然なのだから。

彼女は鞄の中から綺麗な赤い小さな箱を出して私に見せた。

「彼のもここにあるの。私が預かっていたから、今日渡すつもり。そうしてもいいかしら?」

カパッと開いて見せてくれたその中には、彼女のものとお揃いのリングがキラキラと輝いていた。

「…いいも何も…。私には、関係ないから」

それだけ言うのがやっとだ。

「そ?だったらいいけど。一応まだあなたが正式な奥さんだから断っておこうと思って。
ごめんなさいね、余計な話をして」

そう言って笑いながら、見せつけるように口に手を当てる彼女の指輪を見ながら、私は思考能力が低下していくのを感じていた。



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