私たち、政略結婚しています。


「遊んでんなよ」

不機嫌な声で私に言うと克哉はケアネームの札を投げるように私に寄越した。

「遊んでなんか…」

「緊張感が足りないんじゃないのか?コンパなら他所でやれ」

「何を言ってるの?」

彼の態度にカチンときて睨む。

克哉も負けじとそんな私を冷めた目で威圧的に見つめた。

「伊藤さん、ここのカットは左からもいきますか」

話しかけられて彼の視線が私から離れる。

「うん、そうですね。柄が出るように」

話しながら再び克哉は仕事に戻っていく。

私は札を握るようにしながらそんな克哉を見つめたままでいた。


フェイクの必要なんかないわ。
克哉は妬いたりなんかしない。
むしろ私に好きな人ができた方が別れやすくなる。

………あ。そうか…。

その方がいい。

秋本くんに、彼氏のふりをしてもらえば全てが丸く収まる。

………私の心の痛み以外は。



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