*花は彼に恋をする*【完】


入社3年目の23歳の12月に

黒瀬課長代理は

営業部営業1課に異動し

同時に課長へと昇進した。

33歳で課長に昇進出来るのは

M製薬としては早い出世になる。

それは、認められている証拠であり

約2年間部下だった私から見ても

彼の敏腕振りと実績は

良くわかっていた。

『おめでとうございます。』

作り笑顔を浮かべて祝福すると

「…ありがとう。
野田も無理せずに頑張れよ。」

と、優しい表情を浮かべてくれた。

その表情…好きだった。

毎日見られて嬉しかった。

コーヒーやお茶を

あの人の為に入れるのが嬉しかった。

でも

もうお茶を入れる事も出来ない。

同じ本社でも

営業部と報宣はフロアが違うから

顔を見れる頻度は少なくなる。

一番寂しいのは

もうあの人の部下ではいられない事。

元上司の昇進を

素直に喜んであげないといけないのに

公私混同している私の中には

もっと一緒に仕事したかった気持ちが

強過ぎた。

私を庇ってくれた優しさが

忘れられなかった。

好きだけど、言えなかった。


私は夜になると黒瀬課長を想い

涙を流す日々を過ごした。

送別会の時も

作り笑顔は浮かべていたと

思っているけど

心から上手く笑うなんて事は

苦しくて出来なかった。







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