小咄

とあるバレーボール部 部活風景

【キャスト】
コーチ:真砂 部員:深成・千代・あき
・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆
「おい、お前ら三人、コートに入れ」

 とある学校の体育館で、鬼コーチ:真砂が女子部員三人に命じた。
 びく、と身体を震わせたのは、大人しそうな、あき。

「はぁい。お願いしまぁす」

 いかにも嬉しそうに、いそいそとコートに入る千代。

「え~? ちょっとは手加減してよね~。わらわ、ただでさえ小さいんだからさ~」

 ぶつぶつと言いながら進み出るのは深成。
 真砂はその深成に向かって、いきなり手に持ったボールを投げつける。

「にゃんっっ!!」

 弾丸のように飛んできたボールに、思わず深成は身体をのけ反らせた。
 身体のすぐ横を、白いボールが唸りを上げて飛んでいく。

「あっ危ないなぁ! まだウォーミングアップも出来てない……」

「阿呆! 避けてどうする! これがウォーミングアップだ! ちゃんと受けやがれ!!」

 深成が牙を剥く暇もなく、真砂は怒鳴り声と共に、ビシバシとボールを投げる。
 ひいぃぃっと小さく悲鳴を上げながら、深成は必死でボールを受けた。
 が、容赦ない力のボールに、受けた腕が痺れる。

「やだっ! 痛い!!」

 半泣きになって叫ぶ深成に、ようやく真砂は手を止めた。
 あきは青くなって固まっている。

「情けない奴らだ。そんなことで、次の試合に勝てると思うのか」

 じろり、と睨む真砂に、千代が不意に挙手して声を張り上げる。

「コーチ! もし試合に勝ったら、ご褒美をくださいませ!」

「褒美だと?」

「はい! コーチ、もし勝った暁には、一日わたくしの言うことを聞いてくださいませ」

 熱っぽい瞳で言う千代に、真砂は少しだけ考えた。
 そして、とん、とボールをつくと、軽く頷く。

「いいだろう。一日、お前らの言うことを聞いてやる」

「ほんとですかぁ!」

 ぱああぁっと千代の顔が輝く。
 同時に脳内では、物凄い勢いで妄想列車が走り出した。

---ああっどうしましょう! こんなチャンス、滅多にないわ! まずは……そうね、ホテルに連れ込んで。お家に押しかけてもいいんだけど、後々ややこしいことになったりしたら困るし。何よりスキャンダルでコーチが辞職なんてことになったら、生きていけないわっ! ここは無難に、ホテルで思うさま蹂躙していただこうかしら。ああっコーチに一日中好きにされるなんて、夢のようだわっ! 朝から晩まで、離さないんだからっ!---

 千代の『お願い』は、どうやら真砂に主導権があるようだ。
 一方先程まで青くなっていたあきも、今はうっすら頬を染めている。
 どうやら似たようなことを(多分もうちょっと大人しいだろうが)考えているようだ。

 その横で、深成は邪悪な笑みを浮かべていた。

---コーチの奴、そんな約束したこと、後悔させてやるんだからっ! んと、そだな~……。まず学校の横の駄菓子屋さんで、わらわの好きなもの全部買ってもらって……。あ! その後はケーキ屋さんに連れ込んでやる! あそこのでっかいパフェ、前から食べたかったんだよね~。あれをおごってもらって、そうだ、その間コーチには、プリンを食べさせてやろうっと---

 同じように、どこかに連れ込む予定のようだが、呆れるほどお子様である。
 ある意味こっちのほうが『お願い』ぽいが。
 しかも何気にこちらのほうが、真砂にとっては痛手かもしれない。

「だが、負けたらお仕置きだぜ」

 にやり、と冷たい笑みを浮かべる真砂に、三人は現実に引き戻された。
 が。

「……はっはい!! 喜んで!!」

 何故か千代は目を輝かせて、大きく頷いた。

---お仕置きですって!! ど、どんなことされるのかしらっ!! あのコーチが怒りに任せて、この身体を……。ああっ! たまらない!!!---

 最早千代の妄想は、留まるところを知らない。
 盛大に鼻血を噴き出しそうになるのを堪えながら、腰を落として身構える。

「お任せください! 何事も、コーチのお心のままに!!」

 一人テンション高く言う千代に、真砂は悪魔のような笑みを浮かべて腕を上げた。

「いい度胸だ。まずは小手調べだ!」

 びしっとボールを投げつける。

「ああっ!」

 ばしんと鋭いボールを受け、声を上げる千代だが、何故か顔は恍惚の表情だ。

「おら! お前らも、ぼけっとするな!」

「きゃあっ」

「にゃーーっ」

 あきと深成にも、容赦なくボールを浴びせる。

「俺に言うこと聞いて欲しけりゃ、放つボール全てを受けてみやがれ!!」

 真砂の怒鳴り声と、部員三人の悲鳴が、体育館に木霊した。

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 ……( ̄∀ ̄)たぁのし~い。
 個人的には、もっともっとコーチには暴言を吐きつつボールを投げさせたかった。
 でもうきうきしながら書いてると、気づけば物凄い字数ではないですか。基本的に小咄は1pに収まるようにするつもりなのに、これ入るのか?

 さて今回は女子バレー部の一コマ。
 たまりませんなぁ。怒鳴りながらボールを投げつける鬼コーチ。そしてそれを、むしろ嬉しがる部員約一名。
 千代にとっては、勝っても負けても後のお楽しみがあるわけで。
 まぁ真砂の『お仕置き』がどんなもんかは……わかりませんがね( ̄∀ ̄)ニヤリ

 こういう題材、筆が進む進むのドS左近でした。
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