作者様の作品はいつもセピア色のフランス映画のように脳内に再現される。悲しいのになにか満ち足りていて、そして永遠にたどり着かない。その永遠は作品の中の今という溺れる時間に塗りつぶされて、目をかすめるだけにとどまる。だがそのたどり着かないものに知らないうちに胸を締め付けられていることに気づく。
この白から始まり色彩に充ち、そして白も失って無になる物語は、若さという愚かさを極めて隠喩的に表している。他の物語もその愚かさに満ちているが、作者様はその愚かさを透明で仄暗い絵のような美しさの中に再現する。人が人生を悔いて歯ぎしりするようなそれを“それでいい”とその囁きは言う。フランス映画のモノローグのように。この短編は誰でも思い当たるその思い出の中に魔法のように引き戻させる。その魔法とディテールが噛み合った完成度の高い作品と言える。