妖ノ宿
妖ノ宿


-序章-

少女の帽子は突風に乗りどこかへ飛ぶ。
お気に入りの白の帽子は、まるで鳥のようにふわふわとどこかへゆく。
少女は帽子を追いかける。

秋から冬にかけての寒い風にあたりながら、少女は必死で帽子を追いかける。

父と母は親戚滝のそばで会話をしていて、少女がどこかに言ったのは気づいていない。
ようやく帽子は風から降り、ふわりと地面へ落ちる。

大きなお屋敷で建築してしばらく誰も手をつけていないだろう、建物の壁には草が生えていた。
庭は荒れ果て、建物自体暗い印象を与えられる。
囲んでいる黒い門は錆びていて、鍵はかかっていない。
少女は門の間から見える帽子を見つめる。

誰も住んでいないだろうと確信した少女は、そっと門を開く。


「こーりゃ」


突然男性の声が聞こえた。
少女は声がしたところへ見上げた。
男は困ったように頭を掻き笑っていた。
聞き手であろうか、右手には黒の煙管を持っていた。
黒の煙管に合わせた黒色の着物に、いくつか派手な柄の着物を着飾っていた。
似合う・似合わないということではない。
こういった衣装を着る人は見たことがないからだ。

「こりゃこりゃ。人のうちに入って、どーしたんじゃい?」
「帽子・・・」

少女は短い人差し指を白い帽子へ向けた。
ちょうど男の足元に落ちてあるのだ。
だから不思議なのだ。帽子をじぃっと見ていて、人が居るのを気づかないわけがない。
少女は少し疑問を持ちながら男を見る。
男は帽子を拾い上げ、少女のところへゆっくり歩く。
ところどころ草がないのだろうか、レンガの上に歩く音が聞こえた。
男は少女の前に立ち、少しだけ門を開きそこからアタマに帽子をかぶせる。

「お嬢ちゃん。お父ちゃんやお母ちゃんにいっちゃーダメだじゃぞい?」
「?うん」
「よーしよし、エェ子じゃい~。ほいじゃ、お兄ちゃんがお父ちゃん達のところまで教えるわ」

男は煙管に口を付け、先端から一本の煙がふわーと柱を作る。
少女がきた方向に向け、少女はその方向へ向いて歩く。
2・3歩いたところで振り向き、男に向かって「ありがとう!!」と弾ける笑顔を向け手を振る。
男は吊られて左手でゆっくりと手を振る。

少女が山の木々によって隠されたとき、男はもう一服をした。


「ここに入ったら、大好きなお父ちゃんとお母ちゃんに二度と会えんわい。」



勝手に門が締まり、重たい音が聞こえた。

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