捨て猫にパン
*魔法の手*
───プルルルルル、プシュー


ベルの音と同時に閉まるドアに押し込まれ、ぎゅうぎゅう寿司詰め状態の体がこれでもかと押し潰される。


毎日のことながら、この通勤・通学のラッシュ、満員電車には慣れない。


“明日からは、もう30分早く乗ろ…”って。


思うんだけど、一人暮らしの26歳、旅行代理店に勤める彼氏いない歴1年半のあたしの朝は、ギリに起きてダッシュで身支度、メイク時間10分、朝食抜きってパターンで、いつもこの時間の満員電車。


憂鬱な朝に加え、6月、梅雨が明けてもうすぐ7月だっていうのに、今日は雨降り。


電車の中は湿度MAXで、今すぐ叫んで降りたくなってしまいそうな衝動にかられる。


会社最寄りの駅まで、もう二駅。


“ふぅー”


安っぽい香水とオジサンの加齢臭の中じゃ、溜め息もままならない。


浅く呼吸をのんで、今日こそはチームで企画した旅行プランの決裁が通りますようにと祈りながら気合いを入れ直し、鞄を持つ手に力を込めた。


あたし、和島 真琴26歳、大手旅行会社支店勤務のどこにでもいるちょっとヌケた(自覚アリ)OL。
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