ツンデレ社長と小心者のあたしと……3
ツンデレ社長と小心者のあたしと……3


その日、あたしはいつも通り、自分のデスクで取引先とのやりとりをしていた。


期日をあまり守ってくれない上に注文の多いクライアント相手に、出来るだけ言葉を選びながら、極力急ぎでお願いしたい旨のメールを作る。


そこへにゅっと大きな影が現れた。


……社長だ。


社長が朝からオフィスにいた事にも気付かない程、複数の案件を抱えいっぱいいっぱいになっていたあたし。
そのパソコン画面をじーっと見つめた後、あっさりとことも無げに言う。


「仕事頼める?」


疑問系ではあるが、実は違う。


社長の頼める?に対しての答えは「Yes」しか許されないのがこの会社では暗黙の掟。


断った事で、

「じゃあもう辞めていいよ……」

と消えた社員を、何人も知っている。


会社で必要なスキルの取得なんかも長くて1週間、ひどい時には明日までに覚えて来いと言われることもある。


これがまた不思議なもので、死ぬ気でやればなんとかなってしまったりするから、余計に社長の無茶ぶりが止まらない。


「俺が選んだ社員なんだから、できるに決まってる」


と遠回しな褒め言葉で、結局は皆、納得させられてしまうのだ。


きちんとセットされた柔らかそうな短髪を揺らしながら、社長が一歩あたしに近付く。


「何の仕事ですか?」


「ああ、今度俺の書いた本をまとめた紹介のページを作るんだけど、その説明文。面接の時、俺の本全部読んだって言ってたから楽勝だろ?」


面接の時のこと、覚えていてくれたなんて……なんだか嬉しい。


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