初恋だって…いいじゃない!―番外編―
番外編「初恋は…実らない?」
「決めた! 高校卒業までに絶対に初体験する」


歩美(あゆみ)は親友、雪絵(ゆきえ)の力強い言葉に、飲みかけのアイスカフェラテを吹き出しそうになった。


「ちょっと待って、雪絵ちゃん、いつ彼氏作ったのっ!? ひょっとしてプロポーズとかされた?」


思わず、声がひっくり返ってしまう。

雪絵は老舗旅館の跡取り娘。将来は実家の旅館に戻り、婿をとることが決まっていた。その約束で大学卒業までの自由を勝ち取ったという。
今どきそんな……と思わないでもないが、結局、雪絵自身が祖母や母の願いを叶えてあげたいと思っているのだろう。

だが、結婚相手まで決められてしまうのは不服らしい。

相手は自分で探す――と宣言して結婚まで見据えた相手を探しているが、高校三年の夏までで二回以上デートした相手はいないはずだ。


「そんなわけないじゃない。最後にデートしたのって去年の十月よ。それもランチ食べただけだし……」


雪絵はつまらなそうに、ふわふわクルクルの自称天然パーマの長い髪をかき上げた。

一方の歩美は、肩のあたりで切りそろえたストレートの黒髪。小学生みたいと言われることもある。だが、小学生のときは前髪も眉で切りそろえていたので、かなりの進歩だろう。


「……パスタの食べ方が気に入らないとか言ってたっけ」

「そうよ。結婚するとなったら、自営業の場合、最低でも毎日三回一緒にご飯食べるのよ。食べ方って重要だと思わない?」


歩美の家も自営、洋食屋なので雪絵の言いたいことはよくわかる。今もちょうど休憩時間なので、店内のボックス席に座りふたりは話していた。


「思うけど……じゃあ、誰と初体験するの?」

「結婚相手を探すっていうのは諦めようかな、って。だって、老舗旅館に婿入りしてくれる人を探してるの、って言うだけでみんな腰が引けてるし……」


たしかに、最初から老舗旅館に婿入り前提となると、いくら雪絵が美人でも戸惑う気がする。
歩美がなんとも言えずに黙っていると、


「だからね、パッと見はいいかなぁと思っても、食べ方ひとつで、生理的にイヤッって思うわけよ。それって、どれだけ好きな人でも何年か経ったらイヤになるかもしれないってことでしょ? だったら、イイとこだけ見て初体験して、好きなうちに別れるほうが幸せだと思わない?」


わかるような、わからないような……。


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