いってらっしゃい
短編その①~紅~
静かな部屋にわずかにきしむベッドの音と、ふたりの放つ熱が発せられていた。

首筋から鎖骨まで、ゆっくりとなぞるように舌が下りていく。
舌が通った後に触れる空気がひんやりと冷たい。

「んっ……」

わたしの口からおもわず溢れる甘い声に、覆い被さるようにしていたあなたが顔を上げてニヤリと微笑む。

……確信犯。

「しばらく会えないから」

甘く掠れた声で微笑むと、胸のふくらみの上部に唇を強く押し付けてきた。

「あっ……だだだだっ!イター!!」

強く吸われ過ぎて気持ちいい通り越して痛い。
引きはがそうともがくと、大きな手のひらに両手を掴まれて身動きが取れなくされてしまった。
されるがままのわたしに対し、気の済むまで強く吸うと「よし」と満足そうに頷く。

「もう! よし、じゃないよっ」

ふくれっつらでいうと、ふくれた頬を突っつかれた。

「俺だけが咲かせることの出来る花」

といって、出来たばかりのキスマークを指す。
胸のふくらみの上部に咲いた、紅い花。

「俺がいない間、消えないように」

寂しくないように、そんな想いが伝わってきて胸が熱くなった。
しばらく会えないけれど、わたしたちに涙は似合わない。
だからわたしは笑って見送る。

「……気をつけていってらっしゃい」


おわり。
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