忠実わんこに愛を囁く
whisper…

「せーんぱいっ! 今日こそ飲みに行きません?」


「行きません」


「うっ。じゃあ、いつ予定空いてますか!」


「空いてません」


 淡々と繰り広げられた会話の応酬に内心辟易しながらも、顔には出さずに塩対応。


 それが行われているのは、21時を回ったオフィス内。


 辺りは静まり返っているから、このフロアにいるのは私とコイツだけなんだろう。


 それにうんざりしつつ、ため息が出そうになるのをぐっと堪えた。


 私の一挙手一投足にコイツがいちいち反応して、面倒だから。


「先輩ってば! 俺の話ちゃんと聞いてます?」


 私の心情なんて何も分かっていないであろうコイツは、私がテキトーな対応をしているのにも拘わらず、しつこく絡んでくる。


 本当に、面倒だ。


「ねえ、先輩ってば!」


「聞いてません」


 正直、この会話は嫌という程している。


 だから、私は相手の顔も見ず、目の前のパソコンから視線を外すことはない。


 コイツは私のそういう態度に慣れたのか、気にせず話しかけてくるんだけど。


< 1 / 10 >

この作品をシェア

pagetop