【壁ドン企画】彼との距離
彼との距離
片道2時間。
300kmを超える旅も、これで最後だ。
いつもなら浮かれた気分で、お店の情報を確認したり、音楽を聴いたり。
でも、今日は憂鬱で、ただ、流れる景色を眺める。
彼が上京する日には、離れても大丈夫だよね、と何度も確認したけれど、どうしたらいいか、わからなかった。
会えない日は寂しいし、連絡が取れないと不安になる。
だからといって重い女にもなりたくない。



始めはよかった。
何とかバイトをしてお金を工面して1ヶ月に1回の逢瀬を確保した。
だんだん会う間隔が開いて、2ヶ月に1回。その代わり、現地集合で遠出をしたり、長期の休みをあわせたり、一緒にいる時間は長かった気がする。
でも、積極的にボランティアや海外留学を考えている彼は忙しくて、就職活動を考え始めたらお互い忙しくて気がついたら、デートらしいデートをしていなかった。メールや電話もしていたけれど、スケージュール調整の業務連絡のようだった。
そして、決定打は彼はグローバルに働こうとしていたこと。
彼の目は世界を向いていた。一緒にいたくて東京開催される就職説明会に一緒に出席したのに、やりたい仕事が漠然としすぎて絞られないままの私は、説明が右から左へ流れていくばかり。
彼は、バンバン質問をして、会社の人の印象に残っただろう。

「この会社に興味を持たれたのはどうしてですか?」

人事担当の人に聞かれて、ありきたりで適当なことを答えた。
本当の理由が不純で答えられない。

『彼の傍に居たくて』

そう自覚したら、彼を待つのは、東京じゃなくてもいいことに気づく。
むしろ、世界に羽ばたく彼は私の元に帰ってきてくれるのかすら疑わしい。
会えば楽しいし、彼は優しいし、今でも大好きだ。
かといって、彼と一緒に世界についていく覚悟もない。
生きていく世界が違う。
もう、違ってきている。
だから。
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