僕と三課と冷徹な天使
灰田の初日

配属

とうとうこの日がやってきた。

新入社員の僕が配属された
総務三課は、落ちこぼれが集まる所
という噂があった。

同期のみんなは
同情してくれたが、
僕は総務三課だろうと
そうでなかろうと

”配属先が決まった”

そのことがうれしかった。

僕なんかが入社できたこと自体、
奇跡だと思っていたし、

研修期間中にクビになる人もいる
と聞いていたので、
本当にほっとした。

だから配属される今日も
憂鬱ではなかった。

ただ・・・緊張し過ぎて胃が痛い。

昔から入学式や
始業式なんかの大事な初日は、
緊張して体調を崩してしまう。

昨日は全然眠れなかった。

居眠りしたらどうしよう。

いや、緊張でそれどころじゃないな・・・

なんて考えていると、
総務三課の前に着いていた。

(すー、はぁ)

ため息のような
情けない深呼吸をし、
僕はノックをしてドアを開けた。

「・・・失礼します」

やっぱり緊張して声が出ない。

我ながら蚊のなくような声だ。

「灰田君だね!よく来てくれた~」

総務三課の下柳課長が
満面の笑みで飛んできた。

緊張でガチガチだった僕は、
その笑顔にほっとした。

「もうひとりの新入社員は
 辞めちゃったからさ、
 本当に来てくれてよかったよ~」

ちょっと頼りない笑顔で
下柳課長は言った。

そう、一緒に配属になった飯山君は
三課が嫌で辞めてしまったのだ。

すごい勇気だと思う。

僕は会社を辞めてしまったら、
田舎に帰るしかないから・・・

でもおかげで、
こんな僕でも大喜びで迎えてくれる。

飯山君に感謝だ。

「はーい、みなさーん。
 新入社員が来ましたよ~。」

張り切った様子で下柳課長が声をかける。

パソコンや書類に向かっていた顔が
こっちを向いた。

僕は緊張して皆さんの顔を直視できない。

「じゃ、灰田君、自己紹介をお願いします」

と課長が言った。

「は、はい。灰田直人です。
 よろしくお願いします。」

と精一杯言ったが、
声が震えてしまって、
我ながらカッコ悪かった。

まわりを見る勇気がさらになくなった。

そんなことは気にしていない様子で
相変わらず上機嫌な下柳課長は

「はい、よろしくね~。
 じゃ、コオちゃん、
 あとはよろしくお願いします」

と一番端に座っている女の人に言って、
自分の席にそそくさと戻って行った。

コオちゃんと呼ばれた女の人は立ち上がって

「新人担当の郡山佑佳です。
 よろしく」

と言って僕のほうに歩いてきた。

その目はまっすぐに僕を見ていた。

鋭いような、
優しいような不思議な目だった。

あまりにも綺麗な瞳だったので、僕は

「よろしくお願いします」

と頭を下げながら
目をそらしてしまった。

そんな僕の様子は
まったく気にせずに

「灰田君の席はここ。
 私の隣ね。
 とりあえず荷物を片付けて、
 まずは自分のパソコンの
 セットアップをして。」

そう言いながら郡山さんは
自分の席に戻り、
パソコンに向かってしまっていた。

まわりをちらっと見ると
みんなも仕事に戻っている。

「あ、はい」

あまりにもあっけない
紹介の終わり方に焦りながら、
僕は荷物を机に置き、
パソコンを立ち上げた。
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