ブルーライトメモリーズ
ゆうやけこやけ


「最悪」

"第二科学準備室"と札の掲げられたこの教室は滅多に使われることがない。少なくとも私がこの高校へ入学してから二年間は、足を踏み入れた記憶すら無い。

机の上は埃まみれだし、壁に沿うように備え付けられている背の高い棚には何が入っているかもわからない。

しかも棚の側にひっそりと立っている人体模型がこの教室を不気味に仕立てている。

あぁ、もう。


「さいっあく」

一方方向に癖がついて使いづらい箒で乱暴に床を掃きながらもう一度そう呟く。すると少し離れたら位置から、これまた憎らしい声が耳に入った。


「うるせーな、黙って手を動かせよ」

ちらりとその方向へ目を向けると、一人の坊主頭がこちらに背を向けて雑巾で棚を拭いていた。

その刺々しい言葉に、子どものように口を尖らせる。


「なによ、偉そうに。そもそもアンタが私に突っかかってくるから」

「お前がそうやってでっけー声出すからだろ」

「うるさいな、青木が最初に馬鹿にするからいけないんでしょ」

「別に馬鹿にしてねーだろ、ただあのキャラクターに似てるって言っただけで」


それが馬鹿にしてるんだっつーの。

そう小さく呟いた声は彼には聞こえなかったようだ。



何故私たちがたった二人きりでこの埃まみれの教室を掃除しているのかというと、今日のロングホームルームまで遡ることになる。

事の発端は、来月行われる体育祭の各種目の出場選手を決めている時、隣の席に座る青木が私に声をかけたことだった。


「お前、髪切った?」

「え?あーうん、そう。でも切りすぎちゃったの」

そこまではよかったのだ。問題は次の青木の発言だ。


「あー、でもいいんじゃね?ほらあのキャラクターに似てる、ペロちゃん」



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