だめだ、これが恋というのなら
Prologue



小学五年の冬。


親父の浮気が原因で、俺の親は離婚を決意した。


その頃の俺は親が離婚することがどういうことなのかきちんと分かってなかったと思う。


離婚が成立し、俺が成人になるまでは親父からの養育費とかをもらう約束だったらしいけど、親父が再婚して、再婚した相手との子供が出来たところから仕送りがなくなり、生活は一反に貧しいものになった。


まだ義務教育期間とはいえ、周りの友達が塾やらゲームやらお金をかけてもらえることが羨ましくて、俺も金のない母親に何度も我儘を言って困らせていた。



そして、小学六年の夏を迎える頃には、母親が現実と向き合うことに嫌気をさしたのか、酒を浴びるほど飲むようになり、その頃から母親は俺に対しての当たりが強くなっていた。



今でも、覚えている、母親からの言葉。



『お前は離婚したろくでもない、あの男にそっくりだよ』



『一年一年、どんどんあの男に似ていく…』



『お前もあたしを苦しめたいの?』



毎日のように、酒が入ると、俺にそう言った。


最初の頃は、辛いと思ったし、悲しいとも思った。


俺が浮気をしたわけでもない、俺が母親をどん底に落としたわけじゃない。


でも、どうして俺が親父の代わりにそんなことを言われなきゃいけない…


理不尽な毎日に、俺は嫌で嫌で仕方なかった。



でも、なんとか自分を押し殺して、母親と向き合おうとした。




けど、母親のこの言葉で、俺は自分の人生を諦めた。




『お前はあたしみたいな女を作るんじゃないよ?
 お前は人を好きになるな…あの男と同じ顔をしてるお前は絶対にあの男と同じことをするからな』



俺は誰も好きになっちゃいけない。

誰も愛してはいけない。


小学六年で、俺はそう悟った。





だから、俺は本気にならない。

本気で俺を求めようとする奴は切り捨てる。


でも、それが俺の最大の優しさなんだ。


親父のように誰も傷つけず、生きていくための、俺なりの答え。


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