月明かり
こころ


「結局別れました〜!」

同僚の女の子からの発表。話を聞いていて、いずれそうなるだろうなとは思っていた。なぜならその相手が私の恋人で、私の双子の兄だから。



彼女は私と兄が兄妹であることに気づいてなかったし、これからも気づくことはないだろう。斉藤というありきたりな名字に、双子と言っても二卵性であるため全く似てないことが理由だ。
おそらく兄は彼女と付き合ってた認識はない。性欲を発散させるために彼女とヤった。私とすれば親にバレるだろし、もし妊娠しても出産はできない、だから他の女とヤる。これは私たちが気持ちの確認をした時に約束し、私から提案したこと。歪んでいると言われても仕方ない。それでも彼以上に愛せる人が見つからないのだから。




そもそも兄を兄として見たことはなかった。いつも隣にいて当たり前だったからなかなか気づかなかったけど、思春期に入り周りが恋愛に敏感になると嫌でも気付かされた。幼い頃から成績も優秀で優しく知的な兄は人気があった。中学に入り成長期をむかえ、身長が一気に伸びると人気に拍車がかかった。日常的に呼び出しをされ、ラブレターを渡されることもしばしば。時には双子の妹だからと私に頼んでくることもあった。そんな時兄からこう切り出された。「お前もやっと、気持ちに気付いた?」「俺は昔からお前しか見ていない」と。





「ただいま」
仕事が終わり家に帰る。今日はラストまで入っていたから家の中は真っ暗だ。お風呂を済ませ、部屋に行く。するとなぜか兄がいた。

「おかえりなさい。仕事お疲れさま」

「ありがとう…どうしたの?何かあった?」

「今日はね、大切な話があって。こっちに来て座ってくれる?」

言われたことを素直に聞き、隣に座る。

「お前の気持ちを聞いたときからずっと考えていたんだ。もう周りの目を気にしないところでお前と二人だけで暮らしていきたい。今度海外転勤が決まった。父さんと母さんにはまだ言ってない。…二人だけで遠くへ行かないか?」

突然のことに混乱する。友達、親、仕事…今の生活は楽しいものだったけど、それは全て彼がいたからであって彼がいなくなれば私の世界は色を失う。

「行く…一緒に連れて行って」

即答だった。
彼は安心したように笑う。

「出発は明日の早朝。最低限のものしか持っていけないけど準備しておいて」

そう言われ、ボストンバッグに通帳、数枚のワンピースと下着、二人の写真を詰めた。何か両親に手紙を書こうと思ったけど、涙が便せんを濡らしてうまく書けなかった。


「よし、行こうか。」
彼に手を引かれ家を出る。二人が育った家も街も今日でお別れ。それでも私たちは笑顔だった。周りに狂っていると言われようが構わない。やっとスタートラインに立てた、そんな気分。唐突に彼が言う。

「お前に他の女とセックスしていいって言われたけど、どうしても勃たなくてヤったことないの。僕にとっての女の子はお前だけみたい」

「…そっか。ずっとなんであんなこと言ったんだろうって後悔してたけどわかってたんだね、私の考えてること」

「そりゃあまあ、元双子ですから。もう今は恋人ですけど」

恋人、という響きが胸をくすぐる。私が笑えば彼も笑う。彼が笑えば私も笑う。そんな二人を月明かりが照らす。今度はお日様に照らされてね、と満月は密かに願う。


【完】
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