行雲流水 花に嵐
序章
 しん、と静まり返った夜の道端に、手拭いで顔を隠した男が二人佇んでいた。
 二人はある小料理屋に目を留めると、頷き合ってその場を離れ、道を外れて脇の草むらに身を潜めた。

 男たちが身を潜めて小半刻ほど経ったとき、小料理屋から客が出て来た。
 提灯を持った小者を先頭に、少し肥えた初老の男が出てくる。

 草むらの男が、少し動いた。

「護衛は一人か。楽勝だな」

 もう一人の男と言葉を交わし、狙う獲物が小料理屋から離れるのを待った。
 初老の男は要蔵(ようぞう)という、色町を仕切る親分である。

「へ。要蔵親分ともあろうものが、油断したな」

 草むらの中を伝って要蔵を尾(つ)けていた男の一人が、懐から匕首を引き出した。
 そのとき、もう一人の男が、要蔵の後ろを歩く男を見、はっとしたように傍らの男の腕を掴んだ。

「お、あいつぁ上月(こうづき)じゃねぇか」

「何?」

 匕首を構え、今にも飛び出そうとしていた男の顔が強張る。
 そして、近付いてくる影を、目を凝らして見た。

 前を行く小者の提灯は、一番後ろの男までは、そう届かない。
 だが、ぼんやりと浮かび上がるその影に、草むらの男たちは息を呑んだ。

 ひょろりとした身体に、刀が重そうに見える。
 特に周りを気にするそぶりも見えない影は頼りなげだが、この男が真に上月であれば、見たままの男ではないはずだ。
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