crocus
3月1日(大雨)

みんなと初めて出会ったのは、どしゃぶりの雨の日。

傘もささず、ただ雨に打たれていた。
そうすれば洗い流してくれる気がした。
……涙も、弱さも、寂しさも、後悔も。

冷えた体は雨粒の冷たさも覚えてしまって、もうこのまま足元に広がる水溜まりの中に迎え入れてほしかった。
そのくらい居場所がほしかった、3月1日の夜。

「だ、大丈…夫?」

最後に通行人を見たのは、どのくらい前だっただろう。車の通りもほとんどない深夜。

掠れ気味の男の人の声が頭上から聞こえて、雪村若葉は驚いて体を硬直させた。掠れた声の持ち主は、言い終えるとすぐにコホッと空咳をした。

歩道に埋め込まれた木と木の間、わざと雨に打たれていた若葉は当然全身ずぶ濡れで、誰がどう見ても不審者だ。話しかけるのにはいくらか勇気がいったに違いない。

そんな勇気ある優しいその人の表情が気になって、ゆっくり顔を上げようとしたけれど、前髪から滴り落ちてくる雫のせいでうまく瞼を開けられなかった。

恥ずかしくなりだした若葉は、わたわたと慌てて手で前髪を横に流していると、目の前の男の人は持っていた傘をそっと若葉の方に差し出してくれた。

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