その手に操られたい
オフィスにて


今年と去年の売上データを並べ、エクセルでグラフを描いていた午後。


「悪いんだけど、こっちの修正を先にやってもらえるか?」

マウスを操作していた右手のすぐ横に、パサリと、いくつも付箋のついた提案書が置かれた。

それを持っている、少し筋張った手をちらりと見てから、右上を見あげる。


いつもと変わらない表情で、私を見下ろす上司。


「わかりました」

うなずきながらも、私の意識は、提案書を持つ、彼の右手にある。


「データは共有フォルダの……、あ、ちょっといいか?」

マウスを指差されて手をどけると、

きれいに爪を切りそろえた大きな手が、マウスの形に沿って丸められ、ポインタを動かすために左右に振られる。


彼の視線はモニタ上。

ポインタがいくつかのフォルダをたどって、目的のファイルを探す。

顔をそちらを向けるけれど、私の目は、視界の隅で、せわしなくクリックを繰り返す長い人差し指に吸い寄せられてしまう。


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