パブロフの唇
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右手の薬指、第二関節。
上平さんのそこは、中指に向かって5度ほど曲がっている。
くに、と横を向いた指先。本来あるはずのない緩やかな曲線。
小指側は少し骨が出っ張っており、こりっとした突起がある。


私はその指が、堪らなく欲しい。


彼の手は元々、見事に私の理想と合致していた。
骨ばった長い指や、整った爪。血管が薄く浮いた甲。日焼け具合。完璧の一言に尽きる。
初めて見た時は、とうとう具現化能力を手に入れたのかと思った程だ。

しかしそれは感嘆に過ぎず、私が躰の芯まで痺れたのはその後。
神の偉業である綺麗な指の一本に違和感を覚えた時だった。

完全の中の不完全。
何て素敵。何て最上。
現実は私の理想なんて優に超えるのだ。


悪戯に欲情を煽るカーブ。扇情的な突起。
唇で、舌で、思う様堪能したい。
付け根まで余す所なく口に含んで、頬裏、歯列、全てで感じたい。
傾いた指先は、柔らかな抵抗を私に与えてくれるはずだ。
丹念に舐め、しゃぶり、噛み、唾液に塗れさせて。
そうして艶々と濡れた指先はさぞかし美しく、淫靡なことだろう。


彼の指が、欲しい。



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