花嫁に読むラブレター
1.マイアの結婚

「ステイル、わたし結婚するかもしれないわ」


 育てている山羊たちに餌をやり終え、小屋の裏手でひと休みしているところだった。

 隣に並んで座るステイルに、少女マイアは淡々と告げた。

 目の前には、大麦やライ麦の稲穂がふわふわと揺れている。マイアの髪によく似たそれが。しかし今のマイアには、金色に光る稲穂のような活力はない。琥珀の瞳は今にも泣きだしそうに揺れていたが、マイアは唇をぎゅっと固く結び、ひたすらに耐えている。それもそのはず。マイアは先日、十六の成人を迎えたばかりなのだ。同じ施設に住む若い少女や少年らから、「大人だ! すごい!」と称賛されたばかり。そのとき、マイアはえらそうにふんぞり返り、「そうよ。私はもう大人の女性なのだから、ちょっとのことで動じたりしないんだから」と鼻息を荒くし、啖呵を切ったばかりなのに、これしきのことで泣くわけにはいかないのだ。不安だからと泣いて、周りに心配されることを喜ぶような年齢はもう終わり。外見こそまだ少女の気配を残したままだが、それでも確実にマイアは大人の道を進んでいる。
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