奪取―[Berry's版]
1.再会
 ベッドの柔らかさを背中で感じながら、絹江は思う。異性の視線を、間近で受け止めるのは何年ぶりだろうか、と。両腕を拘束され、全身で感じる他人の重みも、だ。

「覚悟はいい?きぬちゃん」

 艶のある声に、絹江は首を振る。これ以上ないほどはっきりと、激しく。乱れる髪も、気にしてはいられない。なぜなら、相手の眸が獲物を捕らえた獣のように、真剣なものだったからだ。現在、出来うる範囲での抵抗を示さなければ、一思いに食べられてしまうのではないかと思わせるほどに。
 だがそれさえも、彼には暖簾に腕押しのようである。絹江の態度を意に介すことなく、眸を三日月の形に変え、唇で弧を描く。

「いいさ。きぬちゃんが逃げると言うならば、俺はどこまでも追いかけるまでだ」

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