月と太陽
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妃殿下になっても二人は相変わらず仲がいい。

陽菜とアズィールが新婚旅行から戻って暫くは、超が付く多忙だった。それが落ち着いたのは実に二ヶ月後だ。
この日、二人は王宮へ国王の通訳として呼ばれており、久々にゆっくりと顔を合わせていた。

「久し振りだよね、美月とこんな風に座って話が出来るのってさ」
「いつもは立ち話で引継くらいだしね」
「後は携帯で簡潔なメールだけだし」

テラスに席を用意してもらい、長閑にティータイムを過ごしている。

「二人でのんびりしてるのって、日本でもあんまりなかったしね」
「ホント…二人でお茶も三ヶ月はしてないね」
「陽菜と買い物にも行ってないし」
「もうすぐこっちのチェリーポールは開店するんでしょ?」
「うん、来週の月曜にオープンね」
「ボーナス出たし、どっさり買い物行かない?」
「初日は招待あるから一緒に行こうよ」
「いいの?」
「勿論!」

姦しく話をしながらお茶を楽しむ二人に、執務を終えて休憩の為に移動中だった国王が声を掛ける。

「おぉ、義娘たち。華やかな茶会だな、私も仲間に入れてはくれまいか」
「義父上、どうぞ。美月の義父上が和菓子を贈って下さったんですよ」
「日本茶と和菓子です」
「ほぅ…雅やかな造りだな。やはり日本文化は繊細でいい」

二人と和菓子についての話で盛り上がっていると、アズィールとサイードがそれぞれの執務を終えて王宮に駆け付けた。

「もう終わらせたか」

父は二人の義娘に挟まれて優雅に茶を啜っている。

「父上…我々の妻に挟まれて、一体何のおつもりですか」
「親子の絆を深めておったのだが?」
「何が親子の絆だかな」
「嫉妬深い男は見苦しいぞ、息子たちよ」
「……チッ」
「……チッ」

兄弟揃って舌打ちをしたのだ。

「アズィール、来週の月曜なんだけどアリーさんに一日お願いしてもいいかな?」
「月曜?一体何があるんだい?」
「チェリーポールのオープン。ボーナス入ったし久々に美月とお買い物」
「………」

陽菜から美月の名を出されると、アズィールは強く出られない。毎日仕事で顔を合わせはするが、二人が過ごす時間はこれまで数ヶ月に渡り皆無だった。

「サイード、オープンの式典だし陽菜もいるとかなりの宣伝効果よね?」
「………」

サイードも当たり前にそれを知っており、美月が嬉しそうにすると、駄目だと言えないのだ。

「…わかった。アリーは陽菜に付けるよ。私の方は大丈夫だから」
「…仕方ない、カシムを連れて行け…」
「アズィール、愛してる」
「サイード、ありがと」

満面の笑みに、兄弟は顔を見合わせて溜息する。

「サイード、広告塔が決まってないなら私たちがするわよ?」
「駄目だ」
「トルソーじゃ無理よ」
「駄目だ」
「下着姿じゃなくて、アウター着て、他の商品と一緒に写真撮るだけよ」
「駄目だ」
「広めるにはそれが一番いいはずだわ」
「…駄目だ」

美月とサイード恒例の痴話喧嘩だ。

「ねぇ、アズィールはどう思う?」
「そうだな…確かに効果はかなりのはずだ。今やシャーラムの太陽と月…そのお墨付きがあるわけだから、国内のみならず世界的にもブランド側には確実にいい影響が望める」
「こういうリーズナブルな商品もあるお店って、女性の旅行者を増やしもするわよね。荷物が多くなりがちな旅行では現地調達必須だし…そうなれば他でも国内にお金が落ちるから、経済面も潤うわね」
「あぁ、そうだ。国内で話題になれば近隣諸国からの需要も見込めるだろう」
今、アズィールとサイードは共同で国内開発に力を入れている。旅行者向けのリゾート地の整備や、国民への職の誘致など、精力的に活動しているのだ。
「………」

サイード自身、理解してはいるが、衆人環視に美月を晒したくないのだ。それはアズィールも同じ事。今はまた紳士を装っているが内心激しく渦巻いている。

「…とは言ってみるが…俺もサイードに同じく激しく反対だ」
「…地が出た」

開き直った口ぶりのアズィールに、陽菜はポソリと口を開く。

「だがそれでは何の進展もない。幾つか条件がある。それを飲み、自分がS&Jの社員である事と妃殿下と呼ばれる立場である事を重々認識した上でならば、国を治める立場として反対出来ない」
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