例えばここに君がいて
プロローグ

 彼女と俺との関係は、どんな言葉でなら表せるのだろう。

幼馴染というには、触れあった日々が少なすぎるし。
全く他人というには、存在が大きすぎる。


 実際、一緒にいたのは保育園での二年間だけだ。
しかも学年が違うのだから、行き帰りや行事とかちょっとした接点しか無かったと思う。

人生に大きな影響を及ぼすほどの時間を過ごしたとは、とてもじゃないけど言えない。



なのに、ふとした拍子に思い出す。


陸上大会で優勝してすっげー気分良かった時とか。
逆に僅差で負けて悔しかった時とか。

もし、今ここに君が居たとしたら、なんて言うんだろうって。


そして必ず願ってしまう。
君が今ここにいたらいいのにって。


こんなときに思い出す君は綺麗すぎて、俺には手の届かない天使のようにも思えてくるんだ。


 今となってはほとんどない俺と彼女の接点。
あるとすれば、互いの弟達が違う学校とはいえ同級生で、仲がいいってだけの細い糸だ。


独自の方法でコンタクトを取り合う弟達を、羨ましく眺めながら。

俺はずっとあいつらの繋がりだけに頼ってた。
そしていつか会えたなら、どんな話をしようかなんて妄想だけをふくらませて。

でももう考えるだけなんて止めだ。

見えない君を捜すことも、聞こえない君の言葉を想像することも、あまりにも不毛過ぎる。



待つのはやめる。


――――掴みに行くんだ。

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