禁域―秘密の愛―【完】
1:プロローグ


―――抱き締められた瞬間、確かに感じた。


………止まっていた時が動きだす。



その瞬間を。


それをあたかも嘲笑うかのように、外の雷雨は激しさを増した。


「ど、うして…………?」

あれほど愛し合った事も、そこから得た溢れんばかりの幸せも、それに比例するほどの悲しみも………全部。


あなたは………、忘れていたんでしょう?


「瞳………」

「―――っ」


耳元で囁かれる、あんなにも求めていた男性(ひと)の声。


恋焦がれ………、あなたしか見えず


ーーーそして、全て崩れそうになった。


そうなる前に………、お互いに背を向けた。


「俺は一度も………、お前を想わない日は無かった」


ああ。 ーーーなのに。


どうして………


あなたはまた………


「瞳が好きだ………」


私の心へ、簡単に止められない熱情を生み出すの?


「た、くみ………」


ーーー巧。


―――動く音がする。


決して触れてはいけない“禁域”の歯車が廻る音が………。


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